シャンプー、トリートメント、洗顔料、化粧水、乳液、洗剤、柔軟剤などの原料をはじめ、食品、紙、衣類の製造など、実は私たちの身の回りでたくさん活躍している「界面活性剤」。
6月のコラム「髪と頭皮の健康を第一に考えたヘアケア商品の選び方」では、「陽イオン界面活性剤」の髪や肌へのよくない影響について警鐘を鳴らしましたが、「そもそも『界面活性剤』とは何なのか」ということについてまだ解説ができていませんでした。 今月のコラムでは、その「界面活性剤」の中で、特に化粧品原料として使われるものについて、種類や役割をわかりやすく解説していきたいと思います。ぜひ6月のコラムとあわせてお読みください!
界面活性剤ってどういうもの?
界面活性剤ってどういうもの?
世の中に存在する性質の異なるもの同士の間には、必ず境界が存在しますが、この境界の表面のことを「界面」といいます。
「界面活性剤」が指す「界面」とは、特に「水と油の境界面」のこと。
通常そのままでは混ざり合うことのない水と油の界面で、界面の性質を変えて水と油を混ぜ合わせることができるようにするのが「界面活性剤」の持つ性質です。
「界面活性剤」はこの性質のおかげで、
乳化・可溶化(水と油が均一に混ざり合う)
洗浄(汚れを落とす)
起泡・消泡(泡立てたり泡を消したりする)
浸透(水分がしみ込みやすくする)
分散(微粒子を液体の中に均一に分散させる)
など、さまざまな役割を果たすことができるのです。
界面活性剤の構造
界面活性剤は、一つの分子内に油になじみやすい部分(疎水基/親油基)と水になじみやすい部分(親水基/疎油基)の両方をもっています。
たとえば水と油を界面活性剤で乳化させようとした場合、界面活性剤の親水基は水に向かって、疎水基は油や空気に向かって並びます。
このとき、界面活性剤の濃度が一定以上であれば、水となじみにくい疎水基たちが水から離れるために集まり、親水基を外側、疎水基を内側に向けた球状の「ミセル」と呼ばれる粒子を形成します。
このミセルの内側は、油になじみやすい性質をもつため、その中に油分を取り込むことができます。
その性質を利用して水中に油分を混ぜ合わせるのが、「乳化」や「可溶化」と呼ばれる現象で、これを利用してさまざまなはたらきをさせています。
※「乳化」と「可溶化」はどちらも水と油を均一に混ぜ合わせるという現象ですが、「可溶化」の方が溶ける油分が少ないため、形成されるミセル粒子が小さく、化粧水のように透明に近いものが多いという違いがあります。
また、上の例では水の中に油が分散した状態(O/W型)を取り上げていますが、界面活性剤を使うと、油の中に水を分散させること(W/O型)も可能で、その場合は親水基と疎水基の向きが逆になったミセルを形成し、ミセルの内側に水分を保持します。
このように「親水基」と「疎水基」を有した構造は、どの種類の界面活性剤も共通してもっているものですので、基礎知識として押さえておきましょう。
界面活性剤のおもな種類とそれぞれの役割
界面活性剤は、親水基と疎水基のうち、「親水基」のイオン性(電気を帯びる性質)によって分類されています。
界面活性剤はまず、水に溶かしたときにイオン化して電気を帯びるイオン性と、イオン化しない非イオン性との2種類に大別されます。
非イオン性のものは「非イオン(ノニオン)界面活性剤」のみですが、イオン性の界面活性剤はそこからさらに帯びる電気の種類で「陰イオン(アニオン)界面活性剤」「陽イオン(カチオン)界面活性剤」「両性(アンホ)界面活性剤」の3種類に分けられます。
それぞれの種類は、下の表のようにさまざまな役割があります。
成分名の特徴も載せておきますので、ぜひお使いの化粧品の全成分表示と照らし合わせてみてください。
分類 | 特徴 | 主な役割 | 成分名の特徴 |
---|---|---|---|
陰イオン界面活性剤 |
|
(用途例) シャンプー/洗剤 | 名前の最後が 「~石けん」 「~硫酸ナトリウム」など |
陽イオン界面活性剤 |
|
(用途例) トリートメント/柔軟剤 | 名前の最後が 「~クロリド」 「~アンモニウム」など、 他にも 「ポリクオタニム-数字」など |
両性界面活性剤 |
|
(用途例) 敏感肌用シャンプー | 名前の最後が 「~ベタイン」 「~ヒドロキシスルタイン」 など |
非イオン界面活性剤 |
|
(用途例) 化粧水/おしゃれ着洗剤 | 名前の最後が 「~グリセリル」 「~ソルビタン」 「~水添ヒマシ油」など |
成分名の特徴は一例で、この規則に当てはまらない成分はたくさんありますので、愛用の化粧品に入っている成分を調べてみると面白いと思います!
また、この中でも刺激が強い「陽イオン界面活性剤」については、6月のコラムで具体的な成分名を挙げて説明していますので、そちらもご参照ください。
種類ごとの刺激性の違いについて
界面活性剤のほとんどは多かれ少なかれタンパク質を変性させる作用をもちます。
私たちの皮膚や髪はおもにタンパク質ですから、このタンパク質変性作用が強ければ皮膚刺激性が強いということになります。
界面活性剤の皮膚刺激性は成分によってバラバラなので例外もありますが、一般的な成分であれば、
非イオン界面活性剤 < 両性界面活性剤 < 陰イオン界面活性剤 < 陽イオン界面活性剤
の順で皮膚刺激性が強くなるといわれています。
具体的に見てみると…
私自身は研究設備を持っているわけではないので、古いデータの引用にはなりますが、刺激性を示す具体的な数字として、1960年に発表された論文に掲載されている界面活性剤の半数致死量を掲載します。
分類 | LD50(半数致死量・値が小さいほど毒性が強い) |
---|---|
陽イオン界面活性剤 | 50~500mg/kg |
陰イオン界面活性剤 | 2000~8000mg/kg |
非イオン界面活性剤 | 5000~50000mg/kg |
(出典:長谷川淳.医薬品と界面活性剤,油化学.1960,第9巻,第3号,p.117.)
※両性界面活性剤についてはデータがないため3種類のみ
ここでいう半数致死量とは、界面活性剤を複数のラットに与え続けて、そのうちの半数が死に至った量のことで、つまり、その値が小さいほど少量の投与で死に至っているということ。
こうして数字で見ても、殺菌に使われるものもあるくらいなので当然ではありますが、陽イオン界面活性剤は特に刺激性が強いということがわかります。
同じ分類の界面活性剤の中でもその刺激性は全く異なるため、目安にはなってしまいますが、化粧品選びの際に参考にしてみてください。
界面活性剤の用途はさまざまで、それぞれにできる役割・できない役割があるため、「陽イオン界面活性剤は毒性が強いからと身の回りからすべて排除しなければ」と過敏になる必要はありません。
しかし、6月のコラムでも取り上げた残留性の問題など、他にも懸念すべき点があるため、やはり毎日地肌に使うヘアケア剤・スキンケア剤は陽イオン界面活性剤が含まれないものを使う方がオススメです。
余談ですが、fairplirシリーズで使用している「オリベム460」は陰イオン界面活性剤でありながら、敏感肌用に使われる「コカミドプロピルべタイン」や「ココアンホカルボキシグリシネード」などの両性界面活性剤と比べても2倍以上タンパク質変性作用が弱い、刺激性がごくわずかな珍しい成分です。
オリベムについては8月のコラム「洗うほどに潤う!?特別な天然界面活性剤『オリベム』」で詳しく解説していますので、よろしければそちらもぜひご一読ください!
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ヘッドスパ美容研究家/深頭筋ヘッドセラピスト 山本幸恵(やまもと・ゆきえ) 「ヒーリングヘッドセラピー Tiphareth」オーナー。15年間美容師として勤めたのち、2006年から2013年までの7年間、東京白金台にてオーナーセラピストとして日本初となるヘッドスパ専門サロンを運営。同サロンは技術力、ホスピタリティともに業界第一位と言われるまでのブランドを確立し、ヘッドスパの第一人者と称される。独自で開発した「深頭筋マッサージ™」は多くのメディアに注目され、これまでに施術をした人数は3万人を超える。現在は東京新宿区でプライベートサロンを運営。サロンワークのみならずセミナーによる施術者の育成や美容化粧品シリーズ「fairplir(フェアプリール)」の研究開発にも力を入れている。 |
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